自分で言うのもなんだが、自分の住む世界と異なる世界…所謂「異世界」に飛ばされるというのは慣れてしまったと思う。
だが、今回はいつもと状況は違った。
広大な大地と空。恐らくは美しいと表せる自然の中で、全身に感じる風と浮遊感。そして迫り来る地表とに、流石に今回は死ぬんじゃなかろうか。悠は、そんなことをどこか冷静な頭で考えた。
act.1
流石にこれはマズい。
そんなことは分かっているが、かと言って落下するだけのこの状況を打開する策を思い付く筈は当然なく。死ぬつもりなどさらさらないが、それでも運命を天に任せようかと思ったその瞬間に、先程まで落下する際に感じていた空を切るのとは異なる風に全身を包まれたのを感じた。
落下速度が僅かだが殺され。そうして悠が叩き付けられたのは、固い地表などではなく一人の人間の上だった。
「いたたた……」
「大丈夫かい?」
死ぬどころか大した怪我をしなかったのは奇跡としか言いようがないが、それでも打ち付けた全身が痛い。コブが出来たらしい頭をさすりながらむくりと上体を起こせば、一人の青年が心配そうに覗き込んできた。
襟足を短く刈った眩い金糸と海の様に深い蒼の瞳。年の頃は20代前半…といったくらいだろうか。なかなか整った容姿をした男だ。
その後ろでは、もう一人の男がこちらを伺うように眺めている。肩にまで掛かる長い亜麻色の髪と眼鏡越しに鋭く光る紅い瞳。
一見して、なかなかの手誰だと分かる。
「少し腰と頭を打ったけど、大丈夫です」
「そうか。急に上から人が降ってくるんだもんな…。流石に驚いたよ」
僕もびっくりです。思ったことは敢えて口にしない。
「でも、流石にジェイドが譜術を使わなければ危険な状態だったと思うぜ?」
「あ。さっきの風、やっぱり助けて貰ったんだ?えーと、ジェイドさん?助けてくれて有難う御座います」
「いえ、タービュランスで落下速度をある程度相殺したとはいえ、まさか攻撃の譜術を思い切り当てるわけにはいきませんからね。力は抑えましたし、それなりの速度で落下した筈ですから、死なないとはいえ普通なら骨の一本や二本は折ってたでしょう。…無傷で済んだのは、ひとえにあなたの頑丈さ故でしょう」
ですから御礼など不要のことです、とサラリと言ってくれたどうやら命の恩人であるジェイドとか言う男に、悠が僅かでも殺意が沸いたのは致し方ないことなのだろう。
「ところでガイ。そちらの方を起こすのに手をかして差し上げたら如何です?」
「アンタ、分かってて言ってるだろ……」
「さあ、何のことでしょうか?」
白々しい…と呟くガイと呼ばれた青年に「何の話?」と訪ねれば、ジェイドが「こちらの話です」とサラリと流して言った。
「さて。見かけない格好ですが…あなたは何処から……いえ、何処の世界から来たのですか?」
その言葉に、悠は「へぇ…」と感心の声を上げた。まさか一目で自分がこの世界の人間でないことを見破るとは。
答えようと口を開いた瞬間。
「だぁ――!!てめぇら、いつまでこの体勢で話してやがる!!」
悠が落下した際に下敷きとなった人間が叫びながらガバッと起き上がった。
その時の勢いを借りてヒョイッと起き上がった悠は、服に付いた埃を払い落とす。
「生きてたんだ」
「生きてたんだ、じゃねぇ!人を下敷きにしといて…!少しは心配しろ!」
そう言って怒鳴るのは、鮮やかな朱の髪を持つ少年。落下した悠を全身で受け止め下敷きになりながらも悠同様に無傷な彼に、悠はやはり感心の声を上げる。
なかなか強そうな奴らが多い…。これはもしや、手合わせ出来るならば是非ともお願いしてみたいではないか。
「ルーク、落ち着け…」
「落ち着けるか…!人が空から降ってきた上に、なんか知らねーけど下敷きにされたんだぞ俺は!」
「まあ、私もそちらの方に訊きたいことは山ほどあるのですが…。その前に、どうやら落ち着いた場所に移動する必要があるみたいですね…」
辺りをゆったりと見渡しながらジェイドは呟く。
それに続き、赤毛の少年…ルークを宥めていたガイも動きをピタリと止めて周囲へと意識を向けた。
「囲まれたな…。1、2、3…10か。一人3匹ちょい。雑魚とはいえ、少しキツいな」
そう呟くガイに、悠はニンマリと笑ってみせる。
「ちょっと、僕のこと忘れてない?」
こんな楽しそうなことをただ見学してろだなんて、冗談じゃない。
偶々研ぎに出していた居合い用の刀をスラリと抜き放ち、悠は余裕の笑みを浮かべた。
▲▽▲▽▲▽▲▽
想像以上に長くなったので一度切ります。
つか悠ちゃんってこんな口調だっけ…!?
なんかもう色々とごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!!
たぶん気付くと色々手直しされてると思います。
次は戦闘シーン入れて、あと陛下と将軍を出せるまで書けると良いな…。
<B>忘れた頃に書きます。</B>(待ちなさい
「ガイラルディア」
背後から回された逞しい腕とのし掛かる重み。サラリと頬に掛かる金糸と、そして何より耳元で囁かれた甘さを含んだ名を呼ぶ声に、ガイはブウサギのアスランをブラッシングする手をピタリと止めた。
一回り以上離れているにも関わらず子供のように甘えて擦り寄ってくるその姿に、ガイは小さく笑みを零した。
光を受け眩いばかりに輝く金糸へと手を伸ばして梳けば、更に甘えるように肩口へと顔を埋めてくる。
「どうなさったんですか、陛下?」
「いや…ガイラルディアは可愛いなと思ってな」
「………いや、それは誉め言葉じゃないですから」
「あいつらと違って癒される…。新しいブウサギの名前はガイラルディアにしよう、うん」
「…これ以上俺の仕事を増やさんで下さい」
一人勝手に話を進める陛下に僅か苦笑。ブラッシングを中断され先程から不満そうにガイへと鼻を寄せて来るブウサギの耳の後ろをガイはそっと撫でてやった。
蒼い瞳のそれと、日向にごろりと横になっているそれらの名前の元となった人物を思い出して、溜め息を一つ。ピオニーの言う「あいつら」が彼らであることは容易に想像出来てしまった。
急に回されていた腕へと力が込められ、ガイは眉を顰めた。息が出来ないわけではないが、感じる圧迫感はあまり心地良いものではない。
「陛下?」
どうなさったんですか。抱き締められた時と同じ質問をし振り返ろうとすれば、掛けられた言葉にガイはビクリと身を竦める。
「公務をサボって何をしてるのかと思えば…ずいぶんと良い御身分ですね、陛下?」
ピジョンブラッドの血のように美しい瞳を持つ死霊使いと。
「陛下?お疲れなのは分かりますし考慮して差し上げたいのですが…その前に先程の発言の意味を伺ってもよろしいでしょうか?」
澄んだ蒼の瞳と優しげな言葉の裏に何か黒いものを抱えた将軍との言葉に。
ああ、原因はコレかと思うのと同時に俺は巻き込まれるのかとガイは諦めたように深く溜め息を吐いた。
「「陛下?」」
重なる呼び掛けは、まるでレクイエムの如く響き渡った。
▽▲▽▲▽▲▽▲
ピオ→ガイでジェイ→ピオ←フリ
この後ジェイドとアスランの仁義無き戦いが繰り広げられる。…その戦いまでは書けなかったよ。私の技量じゃまだ無理。
ちょっとだけバイオレンスなフリングス。
苦手な方は読まないように!
―――――――――
「ガイラルディア、ガイラルディア!」
「そんな大きな声で呼ばなくても聞こえてますって」
謁見の間。彼のみが座ることを許された王座に座り、嬉々として手招きする陛下の元に呼ばれるがままに近寄る。
ガイが許されるギリギリの範囲まで近寄ったのだが、何が気に入らないのか違うもっとだと言ってくる陛下に断る術をガイは持っていない。彼がそこで良いぞと漸く止まる許可を下ろしたのは、それはもうピオニー本人の目の前に来た時だった。
「よし、そのまま後ろを向け」
「は?いや、それは失礼に当たりますから」
「いいから、向け。ああもう面倒だ」
突然の訳の分からぬ命令に戸惑っていれば、面倒だと言い放ったピオニーに思い切り腕を引かれ、気づけば彼の膝の上に向かい合い座り込む形となっていた。
「え!?わ、すみませ、」
「うーん、思ったより少し重いなぁ。見目は細いが、やはり鍛えているだけのことはあるか」
「ちょ、な、陛下!?何言って…!」
「しっかし、本当に無駄な肉が付いてないなぁ」
「ちょ、本当に待っ…、どこ触って、って腰に手を回さんで下さい!」
「ん~。ガイラルディアは遊びがいがあるなぁ」
「ガイラルディア様!!」
ごっ…!
「ぐぉっ」
鈍い音と共に聞こえたぶうさぎに潰されたかのようなうめき声。
体中をペタペタと触る手の動きもピタリと止まったので恐る恐る頭上を見上げれば、いつ来たのかそこにはフリングスが立っていた。
視線をピオニーへと向ければ彼は頭を押さえて低く唸っている。
ガイは陛下とフリングスを交互に見比べ、漸く現状を悟り助かったとばかりにピオニーの膝の上から降りることができた。
「申し訳ありません、陛下。うっかり足が滑ってしまい、肘が陛下の頭に………大丈夫ですか?」
「っ大丈夫じゃないぞアスラン…」
「……ああ、良かった。ガイラルディア様には怪我を負わせることはなかったようですね」
「ちょっと待てアスラン!その大丈夫はガイラルディアに向けたものか!?」
憤慨していうピオニーにフリングスはにっこりと、それはそれは穏やかな笑みを向けた。
だが、何故だろう。表情は穏やかなはずなのに、ガイには彼の周りに何か黒いものが見えたような気がする。
そういえばここ数日、陛下が仕事ため込んでその尻拭いにフリングス将軍が奮闘してたっけ。
そんなことをふと思い出し、そっとガイは視線を遠くに向ける。
……見なかったことにしよう。
触らぬ神に祟りなしとはまさにこの為の言葉なのだから。
ピオニーもフリングスが周りに纏っているものに気づいたのであろう。顔をひきつらせ、じりじりと後退る。
「待て、アスラン。落ち着くんだ。暴力はよくないぞっ」
「暴力?何を仰るのですか陛下は。一介の軍人が皇帝に暴力を振るうはずが………あっ」
「っぐはぁ!」
バランスを崩したフリをして、そのままピオニーに足払いを掛けるその流れは何とも見事なもので。フリングスは更にそのまま顔面から倒れ込んだピオニーの背中を踏みつける。
何とも形容しがたい声がピオニーの口から漏れた。
「アス、アスラン…!死ぬ、から…!!ぼ、暴力はんた、げふっげふっ」
「陛下が何を仰られているのか分かりかねます。ああ、元々おかしかった思考回路がとうとう壊れましたか」
「ア…ス……、やめ…」
「ああ、骨が軋む音が心地良いですねぇ」
うっとりと言うフリングスに、しかしその眼は決して笑ってはいない。
腐っても一応は皇帝陛下なのだし助けるべきなのだろうかとも一瞬考えたが、彼の幼なじみだったら嬉々と混ざるか飽きるまで放っておくのだろうなと想像したら、それも馬鹿らしく感じて止めた。
相変わらずフリングスにぐりぐりと踏みつけられている背中からはミシミシと骨の軋む音が聞こえてくるが、まあ、死ぬことはないだろう。たぶん。
「ところで陛下。セクハラについてどのように考えます?」
「っいけな……こ、」
「何を仰ろうとしているのですか?聞き取れないのですが」
「むりっ…あし、どがし…ぐふっ」
「何です?」
「…ごめ……ゆるし…」
結論。
世の中には決して怒らせてはいけない人間がいるということを忘れてはならない。
―――――――――
たぶん、根底にフリ→ガイでピオ←フリがあると思う。あくまでたぶんだけど。
つか、フリングス初書きなのに最初からキャラがぶっ壊れた;
「ガイラルディア」
「はい、何ですか?」
「お前、強引な男をどう思う?」
「……………………は?」
突然そんなことを尋ねてきた現皇帝陛下に、ガイは目を剥くしかなかった。
いや、言い方が悪かったかもしれないな。金や力を振りかざして強引に口説く男をお前はどう思うかなどと真剣な顔で尋ねてくるものだから、莫迦なこと言ってないで仕事して下さいなんてガイには言うことなどできなかった。ただ、そういうのが好きな女性も嫌いな女性も居ますし、一概には言えないのでは?とだけ答えてやれば、ピオニーはそれもそうかと神妙な面持ちで頷く。
いや、実はな。と続けて、
「俺はこの通り、金も権力もある」
当然だ。皇帝陛下に金も権力もなかったらそれこそお笑い草だと思ったが、相手はこの皇帝とはいえ不敬罪に当たりそうだったので敢えて口には出さないでおく。
「しかも容姿が良いときたもんだ」
「間違ってはいないとは思いますが、それを自分で仰られるのはどうかと思います」
うっかり反射的に本音が零れてしまったのは御愛嬌として見逃して欲しい。
まあ予想通りというか、実際にピオニー本人は全く気にした様子はなかった。
「まあ聞け。これらが揃っているならば、惹かれないやつなどそういないと思わないか?」
「まあ、そうですね」
「だが、それでも口説けないやつを、俺はどうやって落とせば良いのかが分からない」
きっぱりと言い放った台詞に、それが先程の言葉に繋がるのかとガイは妙に納得した気分になった。
「金や権力を振りかざしててでも、手に入れたい方でも?」
「………こんなもの、持っていたところで意味がないというのにな」
何故、要らないものは容易に手に入るというのに、いつだって欲しいものには手が届きすらしないのだろう。
らしくなく自嘲気味に言う皇帝陛下の姿に、普段自信に満ち内から輝きを放つ彼をここまで追い詰める彼の想い人に、そっとガイは思いを馳せた。
―――――――――
敢えてぐだぐだと書いてみた。
推敲してないから絶対に後日凹んでる自分がいると思う。
ピオニーの想い人は想像にお任せします。
唇と言ったところで、それは所詮躯の表面に過ぎない。
なら、肩や手に触れたりするのと、キスは一体何が違うと云うのだろうか。
そっと近づいてきた見飽きた顔に目を閉じることなく、己の唇に男のそれが重ねられた。
柔らかさと温かさに、こんなにも落ち着きを感じるのは何故だろうか。
その疑問に答えが出る前に、本当に重ねられるだけだった唇が遠ざかる。
「……目くらい、閉じたらどうだ?」
「何故?」
「………あぁもう、分かっちゃいたが、可愛くないなぁ」
それともあれか、お前は俺の一世一代の告白を無かったことにするつもりか。
その台詞に、今のキスはどうやら彼なりの告白だったらしいことに漸く気付く。
それにしても、この不本意ながらも付き合いの長いこの幼なじみは、何を考えてそんなことをしようとしたのか。
キスなど、ただ躯の一部が接触しただけの行為だと云うのに。一体どこが特別たと云うのか。
その事実を教えてやれば、眼前の男の整った顔が見事に歪められた。
形の良い唇から零れ落ちたのは、深い嘆息。
ああ、分かってた。分かっていたさ。
そう言って真っ直ぐに向けられた碧に、一瞬だけ吸い込まれそうになる。
「俺はお前が好きだ」
「何を莫迦な事を仰ってるんですか」
下らない事を言い出した男に僅かながらも苛々されながら、それでも真っ直ぐに眼を見つめ返して言ってやる。
彼の綺麗な碧に己の紅はどのように映っているのだろうか。
そもそも彼の眼には、自分の姿は映っているのだろうか。
「あなたが見ているのは、幻影です。あなたは私を通して、私の妹を見ている」
「違う。昔はそうだったかもしれないが、今は、お前を――」
「戯れ言は結構」
ピシャリと言えば、流石に彼もそれ以上言葉を続けようとはしなかった。
暫くの沈黙の後、恐る恐るといったように髪を撫でられる。そのまま手は頬を滑り顎に回され固定された。
そして再びゆっくりと近付く顔に、今度はそっと瞼を降ろした。
キスなど、単に躯の一部が触れ合うだけの行為。彼との付き合いの長さに、今更拒む理由などない。
ただ、伝わる弾力を、甘受した。
それだけの、はずなのに。
ギシリ。
どこかでそんな軋んだ音が聞こえた気がした。