「なぁ、キスしろよ」
どっかりと腰をおろし、そう偉そうに踏ん反りかえって言った恋人の突飛な台詞に。
「……はぁ?」
つい間抜けな声が漏れたのは、仕方がないことだと俺は思う。
そんな俺の反応が気に入らなかったのか、そいつはあからさまに不愉快そうに眉間に皺を寄せてみせた。
「なに間抜けな声出してんだよ色男」
「いやいやいや、お前こそ急に何言い出してんだよ」
「いいから、さっさとちゅーしろや」
そう言って僅かに顎をあげる仕草は結構可愛い。いや、もの凄く…か?
お望み通りこのままキスし、勢いのまま押し倒しキスの雨を降らせ強気な態度を崩させ可愛く啼かせてやりたいものだ。
いい歳した男を相手に何をと思うかもしれないが、恋は盲目。なんとでも言うがいい。
俺はコイツに惚れてんだ。可愛く見えるものは見えるんだから仕方ないじゃないか。
しかし確かに仕草は可愛いのだが、いかんせんコイツが急にそんなことを言い出した理由が分からない俺としては、どうも行動にし辛いというのが正直なところ。
なにせコイツは、こういった行為を極度に恥ずかしがるタイプではなかったか。
「つか、何。お前急にどしたの」
「んだよ。したいって思ったから言ったんやけど」
「にしても、もーちょい色気のある言い方もあったでしょうよ」
「オネダリしてる時点で十分お色気たっぷりですー」
「別にそれは良いんだけどね。俺としちゃ大歓迎だし」
でもお前そういうキャラじゃないっしょ?
顔を覗き込むようにして言えば、恋人はむくれた表情をしていた。
「可愛いコイビトがちゅーしたいって言ってるのに、そんなコトもできないんですかお前は」
そして、ぷいっと顔を背けた恋人。
ああもう、本当になんなんだこの可愛い生き物は。マジで押し倒すぞ。
でもそれをしたら本当に拗ねかねないので、なんとか理性で押しとどめ、座ったままのそいつの後ろに回り込む。
そして、見下ろしたつむじにキス一つ。
途端にパッと顔を上げた可愛い恋人の顎を捉えて、今度こそ望み通りに唇を重ねてやった。
触れるだけの、バードキス。
わざとリップ音を立てながら唇を離すと、そいつは放心したかのようなどこか抜けた表情で俺のことを見ていた。
そのままジッと視線を合わせていれば、みるみるうちに耳まで真っ赤になるところが何とも可愛らしい。
「も…、いっかい…」
僅かに震えた声で強請られて。
わざとゆっくり顔を寄せれば、ふるりと微かに睫が震える。
「………んっ」
再度唇が触れ合った瞬間、零れ落ちた甘い吐息。
身を預けるようにしなだれる恋人の様子に、なんとなく俺は理解した。
一連の行動は、もしかしたらコイツなりの精一杯の甘えだったのかもしれない。
自分から行動にできなくて。でも、俺を求めて。
虚勢を張ることで、漸くソレを口にすることが出来たのだろう。
もうちょっと素直になれれば良いんだろうけど、きっとコイツには無理だろうから。いいよ、俺が甘やかしてやる。
啄むよう何度も何度も唇を重ね合わせ。偶に漏れる甘い吐息に、背筋へぞくりと痺れが走る。
「…満足した?」
「……アホ」
情欲に濡れた黒の瞳。
足りない。如実に語る視線。
けれどもそいつは、口元だけは悠然と笑ってみせたのだ。
「ホントに足りてないのは、」
お前の方、だろ?
続くハズだった言葉は重なる唇で呑み込んで。
コイツを、そして俺自身を甘やかすべく、今はただ、目の前の恋人の唇を堪能するのに集中することにした。
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なんと、ここまで書き上がっていながら7月頭の日付でずっと携帯のメールボックスに残っていました。
一応イメージした…っていうか、書いたジャンルやカプは明確に存在するんですが、それが何かは明記出来ないので(いや、ちょっと特殊なんで。虹ちゃんとかには酔った勢いでカミングアウトしちゃったが言っちゃマズいんで。)読む時は当てはまりそうなのを適当に当てはめといて下さい。
因みに↑の文、「そいつ」となっているところに固有名詞が入ってたので、マズいと思い打ち直した以外、殆ど7月当初のままです。
なんとなく、ぱっつちが書きたいので久々に頑張って書いてみようと思います。
このカプは、多分1つでも書けば満足する気がするんだ!
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